
認知症と診断されたとき、本人も家族も大きな不安に包まれます。「これからどうなるの?」「何をすればいいの?」という戸惑いは当然です。この記事では、そんな不安に寄り添いながら、具体的にどんな支援や準備ができるのかを、わかりやすく丁寧に解説していきます。
初期症状の見分け方から、生活環境の整え方、介護保険や支援制度の活用法、そして家族の負担を軽減する工夫まで、今すぐ知っておきたい情報をまとめました。また、本人の「できること」に目を向け、尊厳を守るための関わり方や、将来を見据えた法律・お金の準備についても、具体例を交えて紹介しています。
「施設に入れるしかないの?」「どんな制度が使えるの?」「自分はどう関わっていけばいいの?」――そんな疑問を持つご家族にこそ、ぜひ読んでいただきたい内容です。介護はひとりで抱え込まず、知識と支援を味方につけて、一歩ずつ前へ進んでいきましょう。
認知症の初期症状とは?気づきにくい変化を見逃さないために
認知症はある日突然、明確な症状として現れるわけではありません。実際には、日常生活の中で少しずつ変化が起きています。ですが、そのサインはとても微細で、「年齢のせいかな」と見過ごされやすいのが現実です。
この記事では、「最近なんとなく様子が変わった気がする」と感じるご家族のために、見逃されやすい初期症状の特徴やその見分け方をわかりやすく解説します。早期発見は、本人がこれからの生活に関して主体的に選択できるチャンスを広げます。ぜひ、あなたの大切な人の“いつもと違う”に敏感になってください。
日常の違和感に早く気づく!家族が注意すべきサインとは
「最近、同じ話を何度も繰り返すようになった」「財布の置き場所を頻繁に忘れている」——これらは、実はよくある認知症の初期症状の一部です。ただし、すべてが認知症とは限らず、加齢による自然な物忘れとの見極めが大切になります。
● 具体的な初期サインには何がある?
- 会話の中で同じ質問を繰り返す
- 約束を忘れる、予定を覚えていない
- 料理の手順を忘れてしまう
- 場所や時間の感覚が曖昧になる
- 人付き合いを避けるようになる
たとえば、「昨日の夕飯は何を食べた?」と聞くと答えられないのに、子どもの頃の思い出はよく話すようなケースも典型例です。近時記憶(最近の記憶)の低下が最初に現れることが多く、これが本人にとっても“気づき”となり、不安につながることがあります。
また、家族がよく見逃しがちなサインに「性格の変化」があります。たとえば、几帳面だった人が身だしなみに無頓着になったり、人付き合いを避けるようになったりする変化です。
● どうして家族が気づきにくいのか?
それは、本人がうまく“取り繕ってしまう”からです。質問に曖昧に答える、うまく話をそらすなど、最初は「ちょっと変だな」と思っても、日常生活に大きな支障がないためスルーされてしまいがちです。
しかしここで大事なのは、家族が違和感に気づき、専門機関に相談することです。認知症は進行性の病気ですが、早期発見・早期対応によって、本人の生活の質を保つことができます。
「物忘れ」との違いを理解しよう:専門医が語る初期症状の見分け方
年齢を重ねると誰でも「名前が出てこない」「鍵をどこに置いたか忘れた」といった物忘れはあります。それと認知症の初期症状は、どこが違うのでしょうか?ここを知っておくことが、正しい理解と行動につながります。
● 普通の物忘れと認知症の違い
比較項目 | 年齢による物忘れ | 認知症の初期症状 |
---|---|---|
忘れたこと | 一部を忘れる(例:名前は出ないが顔はわかる) | 全体を忘れる(例:会ったこと自体を忘れる) |
日常生活への影響 | ほとんどない | 徐々に支障をきたす |
自覚 | 本人に自覚がある | 本人に自覚がないことが多い |
進行 | 緩やかで安定している | 徐々に進行し悪化する傾向 |
たとえば、「鍵を置いた場所を忘れる」のが物忘れ、「鍵を使うという行為自体を忘れる」のが認知症の可能性があります。
● 最新の医学的視点からの初期診断
2023年の日本認知症学会の報告では、軽度認知障害(MCI)という状態が注目されています。これは、認知症の前段階で、約15〜20%の人が5年以内に認知症へと進行するとされています。一方で、生活習慣の見直しや支援によって改善するケースもあります。
MCIの兆候としては以下のような特徴が見られます:
- 忘れたことに気づいている
- 認知機能の一部だけが低下している
- 日常生活にはまだ大きな支障がない
つまり、「ちょっとおかしいかも」と感じたときこそ行動すべきタイミングなのです。
● 専門医に相談するメリット
家族だけで判断するのはとても難しいものです。だからこそ、専門の神経内科やもの忘れ外来などに相談することが重要です。医療機関では、記憶力や判断力などをテストする簡易認知機能検査(MMSEなど)が行われ、必要に応じてMRIや血液検査が実施されます。
また、早期の段階で診断がつけば、治療薬やリハビリ、生活支援サービスの活用が可能になります。最近では、厚生労働省の「認知症施策推進大綱」に基づき、地域全体で早期発見と支援に取り組む動きも強まっています。
● 認知症かも?と思ったらまず何をすればいい?
- 変化を記録する:気づいた言動や行動の変化をメモしておくと、医師に相談するときに役立ちます。
- 地域包括支援センターに相談:各自治体の支援窓口で情報提供や初期対応の案内が受けられます。
- 早めに受診する:できれば家族と一緒に病院へ。本人の不安を取り除く工夫も大切です。
● 早期発見こそ、希望ある介護と支援のスタートライン
認知症は不治の病というイメージがありますが、今では早期診断・早期支援によって、本人が自立した生活を続けられる可能性が広がっています。大切なのは、「なんとなくおかしいな」と思ったときに、そのサインをスルーしないこと。
家族のほんの少しの気づきと行動が、これからの人生を大きく変える力になります。ぜひ、この記事をきっかけに“気づく力”を持っていただけたら幸いです。そして、次のステップとして生活環境や支援制度についても理解を深めていきましょう。
認知症と診断されたあとの暮らしをどう整える?生活環境の見直し方
認知症と診断されたとき、多くのご家族がまず感じるのは「これからどう暮らしていけばいいのか」という不安です。本人の生活をできるだけこれまで通りに保ちながら、安心・安全な環境を整えることは、認知症と向き合ううえでの重要な第一歩です。
ここでは、「住まいの整え方」「在宅介護か施設かの判断」「住宅改修や補助制度の活用法」など、認知症になっても自分らしく暮らせる住環境づくりのヒントを詳しくご紹介します。あなたの大切な人が安心して過ごせる毎日を実現するための知識を、ここで一緒に学びましょう。
本人が安心して暮らせる住まいづくりの基本とは
認知症の方が暮らす環境には、「安全」と「見通しの良さ」が求められます。症状が進むにつれ、「ここはどこ?」「今、何をしているの?」という時間・空間の見当識の低下が起こるため、迷わない、つまずかない、混乱しない家づくりが基本になります。
● 安全・快適な住環境づくりの3つのポイント
- 転倒リスクの排除
- カーペットやコード、段差などをなくす
- 手すりを設置する(トイレ・廊下・浴室など)
- 夜間の移動に備えて足元灯を設置する
- 見える化・わかりやすさの工夫
- 冷蔵庫や戸棚に中身のラベルを貼る
- トイレや浴室に大きなピクトグラムや名前表示を設ける
- 時計やカレンダーを複数箇所に設置し、時間や日付を見えるようにする
- 徘徊や不安への対策
- 玄関や外出ドアにセンサーや警報機を取り付ける
- GPS機能付きの靴や携帯を用意する
- 適度な刺激を与える工夫(室内に観葉植物、思い出の写真など)
● “暮らしの継続性”を大切に
認知症の方にとって、「いつも通りの生活」が安心感につながります。環境を変えすぎず、本人が使い慣れた家具や物をそのまま使えるように配置することも重要です。とくに記憶に残っているものや空間が、感情や行動の安定に役立ちます。
「危ないから施設へ」は本当?在宅介護のメリットとデメリット
認知症の診断を受けた直後、「もう家では無理かも…」と施設入所を検討するご家族も少なくありません。しかし、必ずしもすぐに施設を選ぶ必要はありません。在宅介護にも多くのメリットがあります。
● 在宅介護のメリット
- 本人の生活の継続性が保たれる:慣れた環境にいることで、混乱や不安が少ない
- 家族との関係性が保てる:ふれあいや会話を通じて情緒的な安定が得られる
- 介護保険を活用した訪問サービスが受けられる:訪問介護、訪問看護、デイサービスなどの支援
● 在宅介護のデメリット・注意点
- 家族の精神的・身体的負担が大きい
- 24時間の見守りが難しい場面がある
- 住宅環境の整備が不十分だと事故のリスクがある
家族だけで抱え込むのではなく、地域包括支援センターやケアマネジャーと連携して、公的な支援や介護サービスを最大限に活用することが、在宅介護を成功させるカギになります。
住宅改修のポイントと補助金制度の活用方法
自宅で安全に暮らすためには、必要に応じて住宅改修を行うことも大切です。段差解消や手すりの設置、ドアの交換など、生活動線に沿った改修を行うことで、事故や混乱を未然に防げます。
● よくある住宅改修の事例
- 浴室・トイレ・玄関への手すり設置
- 開き戸から引き戸への変更(転倒防止)
- 段差の解消(スロープ設置など)
- 滑りにくい床材への張り替え
- 室内照明の増設(認知症の方は薄暗い環境で混乱しやすい)
● 介護保険による住宅改修の補助制度
認知症の方が要支援または要介護認定を受けている場合、介護保険から最大20万円まで(自己負担1~3割)の住宅改修費が支給されます。1回限りではなく、区分変更や引っ越し等により再度申請可能なケースもあります。
手続きの流れ
- ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談
- 住宅改修の内容を決定(事前申請が必要)
- 工事業者と契約し、見積もりを提出
- 介護保険の審査・承認後に工事を実施
- 完了後、領収書などを提出して払い戻し
● 地方自治体独自の補助制度も要チェック
たとえば東京都世田谷区や神奈川県藤沢市などでは、高齢者住宅改修支援制度や認知症高齢者向けの安全対策補助金を独自に実施しているところもあります。お住まいの地域の公式サイトをこまめにチェックすることも重要です。
● 環境を整えることは、本人の尊厳を守ること
認知症になったからといって、すぐに「何もできなくなる」わけではありません。むしろ、本人ができることを維持し、自信を持って生活できるよう「環境づくり」を丁寧に整えることが支えになります。
在宅介護は負担もありますが、地域の支援や制度をうまく活用すれば、「自宅で過ごす幸せ」を継続できます。大切なのは、一人で抱え込まないこと、そして早めの準備と情報収集です。
次のステップでは、認知症の方とその家族の負担を減らすための支援制度について、具体的に見ていきましょう。
家族が押さえておきたい!認知症介護の負担を軽減する支援制度
認知症の介護は、家族にとって精神的・身体的な負担が大きく、時には経済的な負担にもつながります。そんな中、国や自治体が用意している「支援制度」や「介護サービス」をうまく活用できるかどうかが、介護生活の質を左右します。
ところが、これらの制度は「複雑そう」「何から始めればいいかわからない」と感じて、利用をためらってしまう方も少なくありません。本章では、公的サービスと民間サービスの違い、介護保険の申請の流れ、地域包括支援センターの活用法を、わかりやすく解説していきます。
制度を知り、選び、活用する力は、家族を守る大きな支えになります。
知らないと損をする?公的サービスと民間サービスの違いとは
認知症介護にはさまざまなサポートがありますが、まず知っておきたいのが、公的サービスと民間サービスの違いです。どちらにもメリット・デメリットがありますので、必要に応じて上手に組み合わせるのがコツです。
● 公的サービスとは?
主に市区町村が窓口となり、介護保険制度を通じて提供されるサービスのことです。以下のような特徴があります。
- 費用負担が軽い(原則1割〜3割)
- 一定の条件(要介護認定など)を満たせば利用可能
- 利用できるサービスの範囲が決まっている
代表的なサービス:
- 訪問介護(ホームヘルパー)
- 通所介護(デイサービス)
- 短期入所(ショートステイ)
- 福祉用具の貸与・購入
- 住宅改修の補助 など
● 民間サービスとは?
一方、民間の事業者が独自に提供している介護サービスです。以下のような特徴があります。
- 柔軟な対応が可能(時間や内容を自由にカスタマイズできる)
- 要介護認定がなくても利用可能
- 費用は全額自己負担の場合が多い
代表的なサービス:
- 民間の家事代行サービス
- 有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅
- ナイトシッター(夜間見守りサービス)
- 認知症専門の訪問介護 など
● 上手な使い分けが大事
たとえば、昼間はデイサービス(公的)、夜間や緊急時は民間の訪問介護を使うといった形で、「公的=基礎」「民間=補完」という考え方が役立ちます。
介護保険の使い方と申請の流れをわかりやすく解説
認知症と診断されたら、早めに行うべきなのが「介護保険の申請」です。介護保険制度を使えば、訪問介護やデイサービス、住宅改修など多くの支援を低価格で利用できるようになります。
● 介護保険の申請方法【ステップ形式で解説】
- 市区町村の窓口へ申請
- 本人または家族が申請(代理でも可)
- 医師の意見書や主治医の情報が必要
- 認定調査(自宅訪問)
- 調査員が本人の生活状況・心身状態をチェック
- 全国共通の調査票に基づく聞き取り調査
- 要介護認定結果の通知(約1か月後)
- 要支援1〜2、要介護1〜5に区分
- 結果に不服がある場合は「不服申し立て」も可能
- ケアマネジャーとケアプラン作成
- 自分の生活に合った支援内容を設計
- 地域包括支援センターや居宅介護支援事業所に相談可能
- サービス利用スタート!
- 計画に基づき、訪問介護やデイサービス等を受ける
● 費用はどのくらいかかる?
原則、介護サービス費用の1〜3割が自己負担となります(所得によって異なる)。たとえば訪問介護1時間で約250円〜600円程度というイメージです。
この制度を活用することで、経済的な負担を大きく減らしながら、専門的な支援を受けることが可能です。
地域包括支援センターをもっと活用しよう
「地域包括支援センター」は、介護・医療・福祉の連携を図る高齢者支援のハブ的存在です。市区町村ごとに設置されていて、認知症を含む高齢者のあらゆる相談に応じています。
● どんなことが相談できるの?
- 認知症に関する不安(物忘れ、徘徊、暴言など)
- 介護保険の申請方法がわからない
- 家族の介護疲れへの対策を知りたい
- 認知症カフェや家族会など地域資源を紹介してほしい
- 成年後見制度や家族信託など法律的な準備も含め相談したい
● 利用は無料?予約は必要?
- すべて無料で相談可能
- 電話や訪問対応もあり
- 一部センターでは予約制をとっている場合もあるので事前確認がベター
● 実際の活用事例(Aさん・70代女性のケース)
軽度の認知症と診断された母を介護しているAさんは、介護保険の手続きに困って地域包括支援センターを訪問。専門の職員が一緒に申請手続きをサポートしてくれ、さらにケアマネジャーの紹介や、デイサービスの見学予約も同行してくれたとのこと。「一人で悩まなくて良いと実感した」と話しています。
● 制度を知れば、介護はもっと軽くなる
認知症の介護は、確かに大きなチャレンジです。しかし、国や地域が用意している支援制度やサービスを知って、活用することができれば、その負担はぐっと軽くなります。
ポイントは、「困ってからではなく、困る前に相談する」こと。介護保険や地域包括支援センターは、事前の相談にもしっかり対応してくれます。
次章では、認知症の方の「できること」に焦点を当てた、本人の尊厳を守るための支援のあり方について深掘りしていきます。
本人の尊厳を守るために:認知症になってもできることを支える視点
認知症と診断されたとき、多くの人が「もう何もできなくなるのでは…」という不安を抱えます。しかし実際には、認知症があってもできること、役割を持てることはたくさんあります。
本章では、「できないこと」にばかり目を向けるのではなく、「できることを支える」という考え方にシフトし、本人の尊厳を守る介護のあり方について考えていきます。
家族や支援者が少し視点を変えるだけで、本人の表情が変わる。そんな実践例とともに、本人の意思を大切にする支援の工夫も紹介します。
「できない」ではなく「できること」に目を向けた支援の実践例
認知症が進行しても、「できること」は必ずあります。大切なのは、その人のこれまでの人生や習慣、好みを理解しながら、できる活動を見つけ、支えることです。
● 実践例①:料理好きな方が活きた「味噌汁づくり」
料理が趣味だったBさん(80代・女性)は、認知症が進んだあとも「味噌汁だけは作らせて」と希望。家族は包丁を使わず済むよう具材をカットして準備し、本人が味噌を溶いて仕上げる形をとったところ、毎朝の「自分の仕事」として生きがいになっているそうです。
● 実践例②:散歩と挨拶で地域に役割を持てたCさん
Cさん(70代・男性)は、認知症の影響で複雑な会話が苦手に。しかし毎朝の散歩と、地域の人との「おはよう」の挨拶を習慣にすることで、地域とのつながりが保たれ、自尊心を持ち続けることができたといいます。
● 実践例③:簡単な作業でも「ありがとう」で役割を実感
施設で暮らすDさんは、洗濯物をたたむ・新聞をそろえるといった簡単な作業をスタッフから頼まれ、毎日取り組んでいます。「ありがとう」と声をかけられることで、誰かの役に立っている実感が得られ、落ち着いた表情で過ごす時間が増えたそうです。
本人の意思決定を尊重するとは?家族ができるサポートとは
認知症になると、意思表示がむずかしくなる場面もありますが、本人に判断力があるうちに「どんな暮らしをしたいか」を話し合っておくことはとても重要です。
● 「何が大切か」を一緒に考えることが尊厳の第一歩
- 住み慣れた自宅で暮らしたいのか?
- デイサービスなどの利用に抵抗はないか?
- 医療や延命治療について、どのように考えているか?
こうしたことを、できるだけ早い段階から共有し、記録に残しておく(エンディングノートなど)ことで、あとから本人の思いをくみ取る助けになります。
● 認知症が進んでからの意思確認も「工夫次第」で可能
認知症が進んだ場合でも、以下のような配慮をすれば、本人の気持ちをくみ取ることは十分可能です。
- 難しい言葉は使わず、短く・具体的に伝える
例:「ごはんは、今食べたい?あとにする?」 - 選択肢を2つに絞る(Yes/NoやA/B形式)
- 表情や態度から気持ちを読み取る(声のトーン、うなずきなど)
● 家族が心がけたい「伴走」の姿勢
- 決めつけず、「一緒に考える」姿勢を持つ
- 失敗しても責めず、「挑戦したこと」を尊重する
- その人らしい生き方を支えるために、小さな「できた」を喜ぶ
● 本人の声に耳を傾けることが「尊厳ある介護」の出発点
認知症の介護において大切なのは、その人の人生を丸ごと尊重し、「今できること」を一緒に見つけることです。
家族がそばで「あなたはまだ大切な存在だよ」と伝え続けることで、本人の表情や気持ちに確かな変化が生まれます。
「できないから助ける」ではなく、「できることを支える」という視点を持つことで、介護はもっとあたたかく、前向きなものになるはずです。
認知症介護の現実:家族の悩みと限界、そして向き合い方
認知症の介護は、長期にわたって家族に大きな負担をもたらします。感情的な葛藤、体力的な限界、金銭的な不安…。どんなに愛情があっても、ひとりで抱え続けるには重すぎる現実がそこにはあります。
本章では、認知症介護を続ける中で生まれる家族の悩みや限界にスポットを当て、「どう乗り越えていけばいいのか?」という視点から、現実的な対策と心の支えになる取り組みを紹介します。
介護うつや共倒れを防ぐために今からできること
介護をする家族の多くが、次第に心身ともに疲弊していきます。中でも「介護うつ」は深刻で、気づかないうちに自分を追い込んでしまうケースも少なくありません。
● 家族介護者のうつリスクは高い
国立長寿医療研究センターの調査によると、認知症の在宅介護をしている家族のうち、約4割が抑うつ傾向を示すというデータがあります。特に、同居している配偶者や長女にその傾向が強く見られます。
● 早めに取り入れたい「レスパイトケア」
レスパイトケア(Respite care)とは、介護者が一時的に介護から離れ、休息を取るための支援制度です。短期入所(ショートステイ)や、デイサービスの利用を通じて、介護者がリフレッシュできる時間を持つことが可能です。
🌿【ポイント】
「疲れきってから休む」のではなく、疲れる前に定期的に「手放す日」をつくることが大切です。
● 「抱えすぎない」ことが、介護を続ける鍵
- 「自分がやらなきゃ」という思い込みを手放す
- 兄弟姉妹や親戚にも、現状と感情を共有する
- プロ(ケアマネージャー、地域包括支援センター)に相談して、役割分担を考える
否定しない、責めない介護へ:心が折れそうなときの対処法
認知症の介護は、理屈では割り切れない感情のゆらぎが続きます。「また同じことを聞いてる」「怒ってしまった」…そんな自分を責めてしまうこと、ありませんか?
でも大丈夫。完璧な介護者なんて、どこにもいません。
● つい感情的になってしまうのは当たり前
認知症の方との関わりでは、何度説明しても忘れてしまう、理不尽な言動に傷つく…そんな毎日の繰り返しです。
「つい怒鳴ってしまった」「優しくできなかった」と感じたら、その時は一呼吸おいて、少しだけ距離をとるのも立派な方法です。
● 責めるより「今の気持ち」に寄り添う
たとえば、本人が「お金がない」「家に帰りたい」と言ったとき。現実を訂正しようとするよりも、
- 「そうだよね、不安になるよね」
- 「お金のこと、気になるよね」
と、まず気持ちを受け止めてから、対応するだけで、本人の安心感が変わります。
● 自分を責めすぎない工夫
- 日記やSNSで感情を吐き出す(匿名でもOK)
- 一日一回、「今日は〇〇ができた」と肯定的な記録をつける
- 専門職のカウンセリングや相談窓口を利用する
家族会やピアサポートの存在が心の支えになる理由
認知症介護の孤独は、想像以上です。そんな中、「同じ経験をしている人」とつながることが、思っている以上に大きな支えになります。
● 家族会とは?
認知症の方を介護する家族同士が集まり、情報交換や悩みの共有をする自主的な会です。全国の自治体や地域包括支援センター、認知症介護研究・研修東京センターなどが支援しています。
🗣「うちだけじゃなかったんだ」
「こんな方法があるんだ!」
家族会では、共感と学びが同時に得られる貴重な場所になります。
● ピアサポートとは?
「ピア(peer)」とは「同じ立場の人」という意味。介護経験者が、今まさに介護をしている人を支える活動を指します。中には、自らの経験をもとに相談員や講師として活動する人も増えています。
- 専門職とは違う「生の声」がリアルに響く
- 問題に対する向き合い方や気持ちの整理がしやすい
- 無理なく続けられる介護の工夫を知ることができる
● 一人で抱え込まないことが「限界」を超えないコツ
認知症の介護は、決して「ひとりでがんばるもの」ではありません。
「疲れた」と言っていい。
「助けて」と言っていい。
「もう無理かも」と思う日があっても、何もおかしくありません。
介護うつや共倒れを防ぐには、「支援を受け取る力」も大切なスキルです。プロの手、制度の手、そして同じ立場の人の手を借りながら、心と体を守っていきましょう。
あなたの笑顔があることこそが、本人にとっての安心なのですから。
将来を見据えた準備:認知症とともに生きるための法律とお金の話
認知症と診断されたとき、多くの人がまず気にするのは「この先、どうなるの?」という不安です。特に、お金の管理や法律的な手続きに関する備えは、いざという時に「やっておいてよかった」と思える安心につながります。
この章では、認知症とともに生きるために知っておきたい法的手続きと経済的な準備について、わかりやすく解説していきます。
成年後見制度や家族信託の使いどころと注意点
認知症が進行すると、財産管理や契約などの意思決定が難しくなる場面が増えます。そんなときに備えて、「誰がどのように本人の意思を代弁するか」をあらかじめ決めておくことが重要です。
● 成年後見制度とは?
本人の判断能力が不十分になった場合に、家庭裁判所が選任した「後見人」が、財産管理や契約行為などを代行する制度です。
- 任意後見制度(元気なうちに後見人を決めて契約する)
- 法定後見制度(すでに判断能力が低下してから申し立てる)
✅【メリット】
公的制度で信頼性が高く、トラブル防止になる
✅【注意点】
手続きに時間と費用がかかる/家庭裁判所の監督あり
● 家族信託(民事信託)とは?
家族信託は、財産の管理・運用を信頼できる家族に託す制度です。判断能力があるうちに契約を結ぶ必要があります。
✅【メリット】
柔軟な財産管理が可能/家庭裁判所の関与が不要
✅【注意点】
専門家(司法書士や弁護士)への相談が必要/信託内容によっては税務対応も複雑に
早めに準備したい!介護費用の捻出と生活費のバランス
認知症の介護は長期にわたることが多く、費用の見通しを立てておくことがとても重要です。
● 介護にかかるお金はどのくらい?
内閣府の調査によると、在宅介護にかかる平均的な費用は月8~10万円程度。施設介護ではさらに高額になることもあります。
【主な費用内訳】
- 介護保険サービスの自己負担(1〜3割)
- 介護用品の購入費(紙おむつ、介護ベッドなど)
- 医療費
- 交通費や付き添いにかかる雑費
● 生活費とのバランスをどう保つ?
- 年金や退職金などの収入をベースに、毎月の支出を可視化
- 万一に備えて、急な出費に対応できる緊急予備費も用意
- 住宅改修などの大きな支出は、補助制度を活用する
💡【豆知識】
地方自治体によっては、認知症対応のヘルパー利用や福祉用具の貸与に対する助成制度もあるので、早めの情報収集がカギです。
遺言書やエンディングノートを活用した意思表示の方法
「自分の意思を伝えたい」「家族に迷惑をかけたくない」という思いがあるなら、元気なうちに書面での意思表示をしておくことが、家族の安心につながります。
● 遺言書で「財産の行き先」を明確に
- 自筆証書遺言:自分で全文を書く。法的要件に注意
- 公正証書遺言:公証役場で作成。確実で保管も安心
📌【重要】
相続トラブル防止のためには、「誰に何を、なぜ残すのか」を明文化しておくことが有効です。
● エンディングノートで「人生の希望」を伝える
エンディングノートは法的効力はありませんが、以下のような希望を記録することで、家族が判断に迷ったときの助けになります。
- 医療や介護に関する希望(延命治療、施設利用など)
- 財産や口座の情報
- 葬儀の希望やメッセージ
✍️ 書き方に決まりはないので、自分のペースで気軽に始めてOK!
● 将来への備えは「家族の安心」につながる
認知症とともに生きるためには、「判断できる今のうちに」「できる準備を少しずつ」が合言葉です。
法律やお金の話は難しく感じるかもしれませんが、専門家の力を借りれば心強い味方になります。将来のトラブルを防ぐだけでなく、「どう生きたいか」を家族と共有することが、本人にとっても家族にとってもかけがえのない財産になるでしょう。
まとめ
認知症と診断されたとき、本人も家族も大きな衝撃を受けます。でも、そこで立ち止まらず、「これからどうすればいいのか」を知ることが、安心した暮らしへの第一歩になります。本記事では、認知症の初期症状への気づき方から、在宅介護と施設介護の違い、支援制度の活用法、そして法的・金銭的な準備に至るまで、多角的に解説してきました。
まず大切なのは、「早期発見・早期対応」です。物忘れのように見える行動でも、実は初期の認知症のサインかもしれません。家族がいち早く異変に気づくことで、早めの診断と支援につながり、症状の進行をゆるやかにできる可能性もあります。
そして、認知症とともに暮らすには、生活環境の見直しが欠かせません。段差をなくす、照明を工夫するなどの住宅改修は、安心して暮らし続けるためにとても有効です。しかも、補助金制度を活用すれば、金銭的な負担も軽減できます。
在宅介護を選ぶか、施設にお願いするかも、大きな悩みのひとつですよね。在宅介護のメリットは、住み慣れた場所で生活を続けられること。しかし、家族の負担も大きくなるため、訪問介護やデイサービスなどの支援を上手に使うことが重要です。
そのためには、介護保険や公的制度を正しく理解し、活用することが鍵になります。介護保険の申請手順、サービス内容、負担割合などをきちんと知ることで、「知らなかったから損をした」ということがなくなります。地域包括支援センターのような専門機関も、情報収集や手続きの支援に心強い存在です。
また、家族自身の心のケアも忘れてはいけません。介護が長引くと、「共倒れ」や「介護うつ」になるケースも少なくありません。ピアサポート(同じ立場の人同士の支え合い)や家族会などを通じて、孤立しないことが大切です。自分の気持ちに正直に、休む勇気を持つことも介護の一部なんです。
さらに、認知症は「何もできなくなる病気」ではありません。できることはたくさんあります。本人の「できる力」に目を向けることが、尊厳を守り、その人らしい生活を支えるカギとなります。意思決定の場面でも、「どうしたいか」を本人に聞き、尊重する姿勢がとても重要です。
そして、将来への備えも忘れてはいけません。成年後見制度や家族信託は、本人の権利や財産を守るための強力な仕組みです。ただし、使い方や注意点を事前に知っておかないと、思わぬトラブルの原因になることも。信頼できる専門家に相談しながら、早めに準備を始めましょう。
加えて、エンディングノートの活用もおすすめです。自分の希望や想いを言葉にして残すことで、家族が困ったときに道しるべになります。遺言書のような法的効力はなくても、家族にとっての心の支えになるはずです。
このように、認知症の介護や支援には、たくさんの知識と工夫が必要です。でも、すべてを完璧にやろうとしなくて大丈夫です。大切なのは、「ひとりで抱え込まないこと」「頼れるものにはしっかり頼ること」です。
情報を集め、支援制度を使い、時には人に助けを求めながら、一歩ずつ前へ進んでいきましょう。認知症と診断されても、本人らしい生活を支え、家族の暮らしも守ることは十分に可能です。このガイドが、その第一歩を踏み出すための道しるべになれば幸いです。
あなたの「大丈夫かな」という不安が、「これならやっていけそう」に変わる――そのきっかけになりますように。